太平洋戦争末期1944年3月28日、
当時松竹大船脚本部のシナリオライターだった新藤兼人 (32歳)のもとに召集令状が届いた。
「ああ、シナリオがおしまいだ。なんにもしないうちに、鉄砲の弾に当たって死ぬのか‥‥。」帝国海軍二等水兵として呉海兵団に入隊した新藤に、過酷な軍隊生活が始まった。
「お前達はクズだ。兵隊ではない。クズを兵隊にしてやるんだ。」それまで一人前の社会人として仕事をしてきた者たちが、18歳の兵長にビンタをくらわされ、殴られる。
ある日、兵器庫から鉄兜が紛失する事件が起きた。犯人捜しに困った帝国海軍が、頼ったのは神様にお仕えする婆さまの占い。そして、果てしなく続く拷問。強要された兵士の自白で、事件は見事“解決”する。
そんな中、兵たちの唯一の楽しみは、一泊の入湯外出だった。新藤と、同じく二等水兵である森川は下宿へ向かう。森川には愛する妻が待っていた。二人で部屋にこもったきりの森川と妻に、誰も声をかけられない。
新藤のやりきれない日々にも終わりが近づいていた。戦況が悪くなる中、空襲を予告するビラが舞い落ちてくる。「宝塚のお嬢さん 盛装してお待ち下さい 八月十五日 正午訪問します」迎えた8月15日正午、土嚢の裏で緊張しきっている兵士たちに不安がつのる。「もう12時はとうに過ぎたのに、どうしたんだ。」そこへ伝令が飛び込んできた‥‥。
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